
そんなアラサー女性におすすめの本がこちら。

結婚、仕事、親の介護
全部やらなきゃダメですか?
主人公の都はちょうど私と同じアラサー世代。
いろんなことに忙しい。いろんなことを考えなくちゃいけない。
そんな主人公がどう動くのかを知りたくてこの本を手に取りました。
はじめに
自転|物体がその内部の点または軸のまわりを回転すること。
公転|ある物体が別の物体を中心にした円、または楕円の軌道に沿って回る運動。
―Wikipediaより

自転の1周は1日、公転の1周は1年。
自転や公転があることにより、さまざまな現象が起きますよね。
1日単位で変わること、1年単位で変わること。
本タイトル「自転しながら公転する」とは、日々めまぐるしく変化するアラサー女性を取り巻く環境や、女性自身の感情をたとえたものかもしれません。
「自転しながら公転する」山本文緒|あらすじ&内容
―自分のことだけを考えていい日々を取り戻せるのはどのくらい先なのだろう。
与野 都(32歳)は、母の看病のため東京での1人暮らしを解消し、実家に帰ってきた。
毎朝駅ビルのカフェに寄ってソイラテを飲んで、好きなブランドショップで働く生活から一変。
今では車から牛久大仏を眺めながら紙パックの豆乳をすすり、郊外のアウトレットモールへ出勤する日々だ。
好きじゃない系統のアパレルショップでもそつなく仕事をこなすが、以前の職場に比べるとたいした意欲もない。
看病している母親にもどんどん不満が堆積されていく。
そんな時、上司と来たモール内の回転寿司で、態度の悪い店員(羽島貫一)にクレームをつけてしまい―
羽島貫一との出会いを機に、
都が仕事、結婚、両親との関係について
向き合っていく。
なくてはならない寿司屋の羽島貫一との関係
はじまりは、クレームをつけた側とつけられた側の関係。
そんな寿司屋の羽島貫一と都の関係は「自転しながら公転する」のメインストーリーです。
優柔不断な都と、はっきりしない貫一。
似たり寄ったりな2人の気もします。
そんな2人から、わからない、迷っている、悩んでいる…
そんな感情を互いに口にすることは大切だと感じさせてくれました。笑
親しい間柄においては、結論よりもそこまでの思考過程を伝えるほうが、コミュニケーションにおいて大事ではないのでしょうか。
はにかみ屋であまり目を合わせてくれない彼が、都の目を正面から覗き込み、そっと頬に触れてきた。
おみや、ではなく、都と呼ばれるのが珍しくて、嫌な予感がこみ上げた。
「楽しかった。俺なんかに優しくしてくれてありがとう」
―「自転しながら公転する」山本文緒|p386 新潮社
まるで遺言のようなセリフに今後の展開が気になります。
リアルなセリフに心をえぐられる
「自転しながら公転する」には、グサッとえぐられるようなリアルなセリフが飛び交います。
「アウトレットの中のレストランなんてこんなものよ」
(中略)
自分のショップも何か不備があったら「アウトレットだから」とやはり言われるのだろうか。
―「自転しながら公転する」山本文緒|p20 新潮社
上司と入った回転寿司屋の店員へ都がクレームを言ったあとの、上司からのセリフです。
一見、「まぁまぁ」となだめてくれているようですが、グサッときませんか。
「こんなものよ」とは、回転寿司の店員へ言っているようで、同じアウトレットモール内で働いている都にも当てはまる言葉ではないでしょうか。
仕方なく、やむを得なく選んだ仕事ってありますよね。
給与、就業場所、人間関係…。
それでも日々時間と労力を削っているわけです。
自分で「こんな仕事だし」と言うのは別として、他人に言われるとなんだか傷つきます。
言われた経験がある私としては、古傷が痛みました…。
私は稼ぎのいい夫と結婚して養ってもらって、若くて健康なうちに子供を産んだけど、いま特に幸せじゃありません。
―「自転しながら公転する」山本文緒|p150 新潮社
これは都の母、桃枝の心の声です。
重い更年期障害に悩み、夫や娘の心配や気遣いすらも恩着せがましく感じていました。
「(都が)早く結婚して稼ぎのいい男に養わせればいい」と夫の古い考えに違和感を抱いたシーンです。
必ずしも自分の「幸せ」の物差しが、ほかの人にもあてはまるとは限りませんよね。
他人の物差しで当然のように自分自身を測られた時は、結構ショッキングなものです。

結婚報告を知人にしたら、
「結婚するのに働かないと食べていけないの?」と言われたときは衝撃でした。
まさか自分の世代でそういうことを言われるとは想像していなかったからです。
結婚後、なんの疑問も持たず専業主婦になった桃枝。
夫が外で働いて苦労するのは当たり前だと思っていた桃枝。
自分にかけられる圧力ばかり気にして、自分が夫にかけている圧力には無自覚だった桃枝。
そんな都の母、桃枝が終盤にみせる変化にも注目してほしいです。
両親と都の距離感

親と子っていう関係性とは違う、大人同士の関係性になってくる部分にも共感しました。
こどものときと違って、大のおとな同士が同じ屋根の下に住んでいるとこうなるもんだよな、と本文を読んでいて思いました。笑
相手を気遣ったつもりの言葉の掛け方や関わり方でも、受け取り手にとっては違ってきたりします。
ふつふつと積もる相手への不満はリアルでした。
不満があっても、ストレートになかなか言えなかったり、ささいなことで衝突したり。
でもきっと大人になってからの、親との関わりってそういうものでしょうね。
私も仕事柄そういう場面を多く見てきました。
親は子にやってもらって当たり前、子は親だから割り切れなかったり。
「親子」の呪縛から逃れられないというか、逃れるとダメだとかいう罪悪感に苛まれる。
「なあ、一緒にママの看病をしていくって約束したのは嘘か。
ママ、ママって泣いていたのは一時の感情か。やっぱり面倒くさくなったか」
―「自転しながら公転する」山本文緒|p102 新潮社
「お前の人生に家族は必要ないっていうなら、この先死ぬまでひとりで生きていけ。
もしこの家を出て、結婚して新しい家庭を作ったとしても、やっぱりお前は何かあったら逃げるんだろう」
(中略)
そんな薄情なことはしない、と自信を持って言えない自分に愕然とした。
―「自転しながら公転する」山本文緒|p104 新潮社
もはや呪いでしなかない、都の父の言葉。
でもきっと、こういう無自覚の呪縛に無自覚に囚われている人ってたくさんいるはず。
都とその両親の関係の変化にも注目できます。
「自転しながら公転する」山本文緒|評価&感想
いい意味で想像していた内容と異なっていました。
読み始めから、最後の「そういうことか!」感で、すっきり読めます。
478頁と大容量ですが、最初から最後まで中だるみはありません。
まるで与野都という1人のドキュメンタリー映画を見ているかのような感じです。

八方美人で優柔不断な主人公の性格や立ち回りも、多くの共感を得られるのではないでしょうか。
あらすじと内容だけ読むと、一見ドロドロ暗いアラサー女の顛末を想像させますが、大丈夫。
いろんなことに忙しいアラサー女性は、果たして彼女なりの「幸せ」を掴むことができたのでしょうか。
ぜひ読んでみてください。
