ハシビロコウって鳥を知っていますか。
あのシュールないで立ちで人気の大きな鳥。
動かない鳥とされるハシビロコウの学名はラテン語で「クジラ頭の王様」。
今回は、そんな「クジラアタマの王様」がキーワードのお話です。


あらすじ
「夢を見ませんか?」
「私は、夢でこの鳥をよく見るんですよ」
大人気芸能人、小沢ヒジリが「最近、夢中なんですよ」とTVで言ったのをきっかけに、
岸の勤める製菓会社の新商品が大ヒットした。
社内が盛り上がる中、突然岸に異動辞令が下る。
異動先は、なんと前部署の「お客様サポート課」。
そこである1本のクレーム対応を任される岸。
それはなんと、ヒットした新商品に画鋲が入っていたというもので、
都議会議員である池野内の妻から寄せられたものだった。
そんな時、突然岸を訪ねてきた池野内議員から聞かされたのは、異物混入の話でもなく、
ハシビロコウに関する話。
岸は小沢ヒジリに会いに行くように指示される。
岸と池野内議員、そして小沢ヒジリには8年前に金沢でのホテルで火災に遭遇したという共通の繋がりがあったのだが―
本編見どころ
大人気芸能人、製菓会社の平社員、都議会議員を繋ぐ共通点
異物混入事件を機に、一生出会うはずのなさそうな3人が出会います。
出会ったあとに、少しずつ明らかになっていく3人の共通点。
8年前の金沢でのホテル火災、夢、ハシビロコウ―
これらは一体なんなのか。
少しずつ紐解かれていく展開に、ページをめくる手が止まらなくなります。

クレーム対応の鏡、岸の性格
「必要にされるってのはすごいことだぞ、岸。牧場課長ご指名だからな」
―「クジラアタマの王様」伊坂幸太郎|
p24 新潮社
そう言われてイヤイヤながら戻ったお客様サポートでしたが、
なんだかんだ言って、上司の期待通り丁寧で細やかな対応をする岸。
断るに断れない真面目な岸の性格に好感が持てるシーンです。
自分が昔作ったファイルを探し出し、開く。
クレーム処理の心構え、とでも言うべきもので、経験談やいくつかの本を読み、もしくはコンサルタントによる研修で学んだことを自分なりにまとめたものだ。
―「クジラアタマの王様」伊坂幸太郎|
p34 新潮社
↑この二文に岸の真面目な性格がすごい表れています。笑
ちゃんと勉強して、自分なりにマニュアルを作成しているなんて偉い。
そしてこのまま会社の謝罪会見の文書作成を任じられることになるのです。
平社員なのに。笑
そんな断れないタチの岸でしたが、いざという時は真っ向から相手に立ち向かう、頼もしい一面もありました。
「ちょっと待ってください。そんな風に逃げてばかりでは、世間は納得しませんよ」
リポーターの声が聞こえる。
逃げる?
こんなに戦っているのに、逃げるってどういうことだ。
戦う、という言葉が妙に現実味を伴って、頭の中に浮かんだ。
気持ちをぎゅっと引き締める。
「逃げているわけではありませんよ」僕は語調を強くしていた。
―「クジラアタマの王様」伊坂幸太郎|
p57 新潮社
のめない要求に対しては毅然とした態度で接する、クレーム対応と一緒ですね。
理不尽には立ち向かうみたいな。
火事場の馬鹿力のようなパワーが岸にはあるのです。
異物混入事件の後にも、幾度となく危機は訪れるわけですが(しかもだんだんことは大きくなる)、クレーム対応の鏡、岸はどのように切り拓いていくのでしょうか。
一言一句見落とすべからず
伊坂幸太郎作品では鉄則なんですけど、無意味なシーンは存在しません。笑
あの時、あのタイミングで、あの人が言ったあの言葉。
物語終盤になるにつれてたたみかけるように、思わぬところで再登場してきます。
小さな伏線と、小さな伏線回収が繰り返されるので、一言一句見落とすべからずです。
はじめから伏線だと思って読んだとしても、「やっぱりね」とがっかりすることはありません。
あなたの想定を超えてくるのでご安心を。
「ん?ちょっと待って。これってさっきの…」
なんて、ページを何度も戻ったりしちゃってます、私。
読むの下手くそか。
(中略)
池野内議員は、
「うちの妻はすごいですよ。私宛の手紙だろうが、メールだろうが、全部チェックしています。愛人がいるんじゃないか、って」
―「クジラアタマの王様」伊坂幸太郎|
p122 新潮社
例えばこの池野内議員のセリフからわかる、池野内夫人の性格。
これものちのち日本をパンデミックから救う重要なものとして、どこかに登場しますので本編でチェックしてみてください。
膨れ上がる事態はどう収束するのか
いや、ハシビロコウの話じゃないの?
ハシビロコウの話で間違いありません。
でもお菓子の異物混入事件の話でもあり、新型鳥インフルエンザのパンデミック危機の話でもあります。
ちぐはぐそうな事件と事件。
それを繋ぐ、3人の夢。
それがどう繋がって、どう収束するのかをぜひ読んでみてください。

